「さあ、田植えだ!」 華やぐ健菜米の産地をめぐる。

今期の米づくりが、始まった。 山里の3人の生産者、それぞれの様子を取材した。

「健菜米の田植えはいま、佳境ですよ」
 永田米研究会会長の山本秀一さんから連絡を受けて、取材チームは5月20日に上越市吉川区を訪れた。
 現地はいつもとは様子が違っていた。ふつうはほとんど人影を見ないのに、家の前で話し込んでいる女性や、田んぼで作業する人を目にする。苗を積んだ軽トラックともすれ違う。町はどこか華やいでいた。やはり、田植えの季節は特別だ。

吉川源流にある石谷で

 この日、石谷にある曽根倔さんの田んぼを初めて見学した。尾神岳の山間にある石谷は、吉川源流の谷沿いに田んぼが拓かれている。標高が高く、気温が低い地域なので、田植え前だろうと想像していたが、実際は早苗が風にゆれていた。
 その田んぼの環境は厳しい。形は千差万別、日照などの自然条件もそれぞれ異なる上、田んぼに注ぐ水は冷たい。でも、曽根さんはこの地でおいしい米をつくり続けてきた。

 

「ここには知恵と工夫が詰まっている」と山本さんは感心するが、曽根さんは「特別なことはしていませんよ」と多くを語らない。田んぼの管理は容易ではないはずだが......。「無事に田植えができてよかった」と言う曽根さんは、83歳になるベテランだ。秋には朗らかに収穫を迎えるに違いない。

田植えと育苗

 潤沢な湧水に恵まれ、圃場整備もされている源地区では、中嶋琢郎さんが田植えの真っ最中だった。田植え機を自由自在に操って、瞬く間に苗を植えていく。それを長男の郁雄さんがサポートしていた。
 中嶋さんは近隣農家のために、苗づくりをしている。父からその役割を引き継ぎ10年、今では依頼者が200軒に増えた。品種も多く、栽培方法のリクエストも様々だが、「最近は育苗に少し自信がついてきた」と語る。

 「これが健苗の証です」と山本さんがめくった苗床は、分厚い絨毯を敷いたように小さな根が密生し、渦巻いていた。「すごいですね」と感想をもらすと、中嶋さんは「10人の仲間と研究してきたからね」と笑顔を見せた。

 

ちなみに、もっとも管理に気を使うのは、薬を使わず、養分と水を抑える永田農法の育苗だという。その苗の葉は緑色が薄く、弱々しくさえ見えるが、田植え後の成長は力強い。「さすがだなと思います」と中嶋さんは言う。

ていねいな代掻き

 大賀では、中村昭一さんが代掻きに追われていた。
 田んぼは、昨年の収穫後に土を耕して代掻きを終え、水を張ったまま(冬水田んぼ)越冬している。それでも早春に再び代掻きをした。この日は田植え直前の仕上げだ。
 中村さんのトラクターは、田んぼを何回も往復しながら、驚くほどていねいに代掻きを進めていた。攪拌しながら土を細かく砕き、土の表面を水平にしていく作業は、際限がない。

 「百姓の仕事には、ヒマってものがない」と中村さん。代掻きは、田植えの何倍も時間がかかる。いい加減な仕事をすれば、おいしい米は実らない。
 「見てごらんなさい」と中村さんは田んぼの土を手に取った。それはトロトロだった。微生物が活発に働いて、稲の健全な成長を支えてくれる土だ。
 この日、妻の玲子さんは棚田の周囲の草を刈っていた。立っているのさえおぼつかない斜面でも、そのスピードは緩まない。そして、一本の雑草も残さない仕事ぶりを説明するには、やはり「ていねい」という言葉がふさわしい。
 育苗ハウスでは苗が田植えを待っている。ふたりの作業は、太陽が姿を消すまで続いた。こうした仕事に支えられて、健菜米はつくられていく。
 「今年も期待に応えます」と山本さんは宣言する。収穫が楽しみだ。


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