春混じりの風のもと、キャベツの収穫が始まる

春の陽射しの到来とともにおいしさを増す春キャベツ。 豊川の農園では、良品を選別しながら、収穫が始まった。

 取材に訪れた昨年の3月半ば、愛知県豊川市の農園では、春キャベツの収穫が始まっていた。
 畝の間を歩く女性たちが、収穫するキャベツを選んで、手早く株元に包丁を入れていく。そしてバリバリとした大きな外葉を切り払うと、「はい!」と声をかけ、キャベツを宙に投げる。宙を飛んだキャベツは、捕手役の女性の手元に吸い付くように収まり、次々に箱詰めされていった。かなり体力の要る作業だが、女性たちの動きは無駄なく、手早い。阿吽の呼吸だ。

脇芽と風

 「どうやって収穫する玉を選んでいるんですか〜」
 畑の脇から、大声で女性たちに聞いてみた。
「かた............」
 女性の返事は強い春風でかき消されて、聞き取れない。

「結球を上から押さえるようにして、巻きのかたさを確認していくんです」
 そう補足してくれたのは、牧内庸保さん(48歳)。昨年の本紙12月号で、白菜栽培の様子を紹介した生産者だ。キャベツについても、この農園をはじめ、豊川・豊橋市の各所で栽培の指導と管理をしている。
「拾い取りという収穫の仕方です。ふつうは畑ごと、あるいは畝ごとに総取りをするのですが、ここでは選別しています」
 穫りごろ(収穫適期)は結球が大きすぎず、小さすぎず。巻がゆるい春キャベツでも、芯がしっかりとかたいものが良いという。
 ところで、選別しているのはなぜだろう。
「今年の冬は、いつもより寒かったことが原因の一つかな」と牧内さん。
 この返答は意外だった。東三河一帯の気候は、温暖で日照に恵まれている。ただし、冬は北北西の季節風が吹く。その名も「三河の空っ風」と呼ばれる強風が吹くと凍えるほど寒い。しかし、その風が病害虫を防ぎ、白菜やキャベツの糖度を高めることは、牧内さんが管理する農園の特徴でもあるからだ。
「けれど、春キャベツは」と言いながら、牧内さんは外葉をめくり、「風が吹いてくる方向に向かって、脇芽が出ているでしょう」と説明を続けた。
 厳寒期に収穫する冬キャベツと異なり、春キャベツは2月下旬に気温が上昇し始めると脇芽が伸長する。脇芽に養分を取られたキャベツは玉が大きくならない。冬の気温が高いと、脇芽の出芽率は低く抑えられるが、今季は逆だった。そのために、畑では良品だけを選別する拾い取りをしているのだという。

肥料を抑えて

 牧内さんのキャベツ・白菜の栽培歴は25年。自分の農園だけでなく、多くの畑の管理を任されているだけに、経験も知識も豊富だ。それぞれの畑の土壌や気候条件によって、管理は細かく調整しているが、共通していることがある。それは肥料を抑えること。
「25年前から化成肥料は使っていません」
 有機肥料を使い、健全な土をつくってきたのは、安心安全はもちろん、「味が違ってきますから」と言い切る。
 その味の違いは、冬キャベツより春キャベツのほうが際立つと牧内さんは言う。春キャベツは、生で食べることが多いからだ。
「みずみずしくて、食感も香りもいい」
 これから届く春キャベツは、春の陽射しが強くなるにつれて、品種が変わり、歯触りも変化する。そしておいしさを増していく。今年も楽しみに待ちたい。

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