「全部、すいかですよ」
そう言って内田智浩さんは、眼下に広がる田園地帯を指差した。そこには、数え切れない数のハウスが並んでいた。この日は霧雨が混じる曇天だったが、それでもハウス群の白さは目に眩しい。残念ながら、いつもは遠望できる金峰山は霞んでいたが田園の景色は美しかった。
ここ熊本市植木町は、すいかの一大産地だ。特に春から初夏にかけて旬を迎えるすいかは、九州だけでなく、全国に出荷されていく。大玉すいかの出荷が本格化するのは、4月下旬からだが、取材に訪れたのはその3週間ほど前だった。
「穏やかな景色は、嵐の前の静けさのようなもの。収穫時期になると、軽トラがあちこちを行き交うようになります」と内田さん。そして、「私も忙しすぎて、景色を見ている余裕すらありません」と言葉を続けた。
内田智浩さんは47歳。健菜生産者の中では若手だが、すいかの栽培歴は20年になるベテランだ。誠実で研究熱心であることは、毎年、農園から送られてくる果物が語っている。
この日、内田さんはハウスで「玉まわし」を行なっていた。全体に日光がまんべんなく当たるように、陰になっている部分を陽に向けていく作業を、黙々と続けていくのだ。普通は玉まわしは1回だというが、内田さんはそれで終わりにしないで、繰り返す。すいかの重さは6キロ近くその上ハウスの中の気温は40度を超す日も多い。重労働だ。
内田さんが栽培しているのは、果肉が赤い「羅皇ザ・スウィート」と山吹色の果肉の新品種「金色羅皇」の2品種だ。どちらも、シャリ感や糖度、食味の良さで注目されているが、栽培が難しく、生産者は限られている。羅皇ザ・スウイートの地域の標準糖度は10.5度だが、内田さんのすいかは、13度から14度。金色羅皇の糖度はさらに高くなるという。
「じつは、昨年は少し参りました」
まず、収穫直前の大玉すいかがアナグマの被害に遭ったことを挙げた。「隙をつかれました」と。また、台風に直撃され、秋取りすいかの収穫をあきらめたのも痛手だった。
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