先日、わが家で正午の茶事を催しました。お道具類はこつこつ集めた品を使うので、選択肢はありませんが、お出しする松花堂弁当の料理には迷いました。懐石料理の本と自分の腕(これが問題)を比べながら3か月。あれこれと考え、献立はなかなか決まりませんでした。
でも、最初から「絶対に使おう」と決めていた食材があります。
それは、健菜の「てんぺ」です。
料理法も決めていました。厚さ1センチに切ったてんぺを、軽く焦げ目がつくほどに焼き、ナッツやクミンなどをミックスした塩をパラリ。これだけです。お点前の前に食事をしみじみと味わうのに、とてもふさわしい料理ではありませんか。
そしてお茶会の当日。
お弁当をお出しして、茶室のようすをうかがっていると、やはり「あら、これは何かしら」というお客様の声がもれ聞こえてきました。
「大豆よね。甘いわね」
「どうやって料理したのかしら」
「これは、てんぺ。インドネシアの納豆と言われる発酵食品ですよ」と説明しているのは料理研究家の友人です。予想通り、初めて食べた人が大半で、会話が盛り上がっていました。これも予想通り、この味を好まない人はおらず、「おいしい」と感じてくれているようです。お茶会に健菜てんぺという選択は成功でした。
健菜倶楽部にも、まだてんぺを食べたことがない方がいるかもしれません。あるいは、過去の経験から「苦手」と思い込んではいませんか。じつは私もそうでした。
私が初めててんぺを食べたのは20年以上昔のこと。それはインドネシアから輸入された冷凍食品で、当時はベジタリアン向きに肉の代用食品として売られていました。健康食品ではあったけれど、その味は、それほどよくはありません。アンモニア臭がして、食べきれないものもありました。
だから、健菜倶楽部がてんぺの販売を始めたときは、不思議でなりませんでした。おいしいのでしょうか。けれど、試してみたら、記憶していた味とは大きく違います。
まったくの別物でした。
永田農法で栽培された青大豆を原料に、健菜納豆を作っている納豆屋さんが、その経験を生かして製造するこだわりのてんぺです。麹に似たてんぺ菌の扱いにも、原産地とは違い、きめ細かく高い技があるのでしょう。
青大豆はほろほろとやわらかく、もともとの甘さに、発酵の妙味というか、旨みが加わっています。フワフワとした綿毛のような菌糸も無臭で、癖がなく、周囲に「試して」と言いふらしたくなる食材でした。
健菜のてんぺは、本当に癖がなく、煮物にしてもいいし、炊き込みご飯にも揚げ物にも向いています。ひじきと炊き合わせるのもおいしいですね。
もっとも気に入っているのは、最初に紹介した食べ方。焼いて塩を振るだけですから、豪華なおかずにはなりません。質素です。でも、ゆっくりと味わうと、しみじみとおいしさを感じます。この健菜らしい素朴なおいしさが大好きなのです。
健菜倶楽部のメンバーなのに、まだ召し上がっていない方がいらしたら、ちょっともったいないと思います。
(神尾あんず)
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