フレンチの有名店のテーブルに、小さな塩壺が置かれていた時は驚きました。「自分で味を調節してくださいなんて、ありえない」と思ったからです。
でも、それは思い違い。その極薄フレーク状の塩を、食べる直前に肉にかけるとプツプツした食感を伴う塩味が加味されて、おいしさアップ。塩壺は単なる演出ではありません。ぜひ、真似したいと思いました。
そんな話を、懇意にしている割烹料理店で報告していると、女将が「和食の塩使いのほうがもっと繊細よ」と言うのです。和食では、同じ種類の塩でも、その振り方や時間、塩分濃度や使い方などに、様々な技を駆使します。だから、女将は「塩選びにこだわる前に塩使いの勉強を」と言いたげですが...。
「でも、いい感じに旨みを引き立てる塩ってありますよね。料理人を助けてくれるような」
助け船を出してくれたのは、板長の息子さん。
それなら知っています。私が常備しているのは、料理の腕をカバーしてくれる(と信じている)塩、フランス生まれの天然海塩です。最近は、日本産の海塩も増えましたが、天日干しは、見かけません。産地のノアムーティエ島は、大西洋に面した小島ですが、こんな非効率な製塩法が続けられるのは、美食の国フランスだからでしょう。
海水を乾燥しただけの塩は、スモーキーでしっとり。
その塩をわが家ではどのように使っているかというと、ほとんど毎日。炒める、煮る、まぶす、みんなこれ。これさえあれば事足りているのでした。
海塩ならではの複雑な微量成分が、料理の旨みを引き出してくれるよう。また、塩辛さに角がなくまろやかで、大雑把に作ってもおいしく仕上がるのが私にぴったり。引き出しには数種の塩があるのに、使うのはこの塩ばかりです。
私は、ちょっともったいないと思いつつ、梅干しや味噌づくりにも、フランスの天然海塩を使います。その話をすると、女将がきっぱり。
「もったいなくありませんよ。漬け物こそ塩に仕事をしてもらわなくては...。うちも勝負塩を使っていますよ」
これも和食らしいところかもしれません。目立たないところに最上のものを吟味する。小体な名割烹では、縁の下の塩を選び抜いているのです。でもそこは私も同じ。ちゃんと勝負塩をもっています。今度、フランス産の天然海塩を持参し、割烹セレクトと対決しようかな。負ける気がしません。
(神尾あんず)
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