甘さ日本一、地産地消の嶽きみは 岩木山麓の高原育ち

嶽きみは、青森県が生んだブランド野菜。
中でも佐藤農園産はプロが認める逸品だ。

 健菜の生産地を訪れると、絶景に息を飲むことがしばしばある。佐藤恭之さん(52歳)の農園もその一つだ。
 岩木山麓の稜線は、なだらかで美しい。裾野に広がるとうもろこし畑は高原の風を受け、さわさわと波打っていた。
「白い煙が上がっているところが嶽温泉の源泉です」と、佐藤さんは岩木山の中腹を指さした。
「あそこが『嶽きみ』という名前の由来になりました」

 嶽きみは、青森県弘前市西部、標高400〜500メートルの高原で栽培されているとうもろこしのこと。最近、全国的に知られるようになったが、人気が高く、大半は青森県内で消費されてしまう地産地消の名品だ。8月になると、農家の直売場に、嶽きみ目当ての長い車列が出現する。


高原を一変させた作物

「まずは食べてみて」と言われ、畑でもぎたての嶽きみにかぶりついた。プチプチと粒が口の中ではじけ、果物のように瑞々しい。おどろきの甘さだ。
「日本一甘い、と私たちは言っています」
 糖度は18度から20度。メロンなみだ。8月の旧盆を過ぎ、夜温が下がり、昼夜の温度差が開けば開くほど甘みは増していく。しかし、収穫できるのは9月上旬まで。たちまち秋になり、そして厳しい冬が来る。
「夏こそ天国ですが、冬は逆。例年、青森県の酸ヶ湯が深雪日本一になりますが、絶対に嶽地区のほうが雪深い」

 この地でとうもろこし栽培が始まったのは古いことではない。気候が厳しい火山礫の原野の開拓が始まったのは、第2次世界大戦後のこと。入植者は酪農やさまざまな作物を栽培したが、成果が少なく、貧しい地区だったという。
「父も苦労をしていました」
 しかし、自家用に栽培していたものの甘さに注目し、活路を見出した生産者がグループを作ったことが転機になった。学校を出た佐藤さんが就農した1990年頃は、その動きにはずみがついた時期だ。
「『嶽きみ』と名前を決め、みんなで日本一の甘さを目標にした。私は若造でしたから、それは必死でした」
 やがて嶽きみの評判は高まり、地域も豊かになった。
「けれど、おいしい作物を育てるには、これでいいというゴールはありませんね。私は今も必死です」


理想の環境と栽培努力

 佐藤さんの農園は、とうもろこしにとって理想の環境だ。太陽の光は強くて冷涼な風が吹く。昼夜の気温差は10度以上。火山礫だらけの農地は排水がよく、土壌が養分過多になることもない。ただし、土壌は詳細に分析して、佐藤さんは「これがいい」と定めた成分に調整をしている。

 それに、さまざまな種の試験栽培をして、毎年、相応しい品種を選んでいる。糖度が高い新品種が次々に生まれているが、選択には慎重だ。肥料を過度に欲する品種(結果として食味が落ちる)を避け、最近は「恵味(めぐみ)」を栽培しているという。

 佐藤さんの嶽きみはシャキシャキと瑞々しくて、加熱すると穀物らしいコクが増す。どこか子供の頃の夏休みを思い出す懐かしい味もする。
 そんな感想を告げると、「作り甲斐があります」と大いに喜んだ。取材に訪れたのは昨年の8月下旬の収穫最盛期。佐藤さん一家は、夜中の2時に畑に出て収穫し、朝8時には、出荷するという毎日を送っていた。

「甘味を閉じ込めるのには、朝穫りは欠かせない。食べてくれる人が喜んでくれるのだから、辛くはありません」
 そんな佐藤さんの嶽きみのお届けは間もなくだ。

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