赤土の段々畑から 春の味がやってくる。

肉厚のさやに大粒の豆がつつまれたスナップえんどうは島原育ち。春の到来とともに収穫最盛期を迎える農園を訪ねた。

スナップえんどうは、少し欲張りな野菜だ。シャキシャキして瑞々しい"さや"と、ほっこりした"豆"の両方がいっぺんに味わえる。中でも渡部敏信さん(59歳)のスナップえんどうは、肉厚で苦みが全くなく、甘さ抜群。鮮度を保つ点も際立っている。お届けを始めたのは5年前だが、今では健菜倶楽部に欠かせない野菜だといえる。
 その園地があるのは島原半島、雲仙普賢岳の南側、橘湾を見下ろす段々畑群の一角だ。先人が苦労の末に作り上げてきた石組みの段々畑は、見飽きることがないほど美しい。そして、この地を訪れる度に目を奪われるのは、赤土の鮮やかさだ。これほど赤い土は見たことがない。
「雲仙岳から噴出した火山灰が、100万年がかりでこの土になったんです」と渡部さんはいう。
 水はけのよさと適度な保水力を併せもち、鉄分とミネラルを豊富に含む赤土は、永田農法では、適地選択の重要な条件の一つにあげられる。この赤土が、適地を探して全国をめぐっていた健菜倶楽部顧問、故・永田照喜治氏と渡部さんを引き合わせた。

予想外の助言

 渡部さんのもとに、はじめて永田氏がやって来たのは7年前のこと。そして赤土の畑を前にこうすすめたという。
「豆類の適地ですね。スナップえんどうを作ってはどうですか」
 じゃがいも、レタス、とうもろこしなど、質のよい野菜を作ることで知られていた渡部さんにとって、それは予想外の助言だった。豆類を育てた経験はないし、周囲に生産者もいない。それでもその年、助言にしたがって、スナップえんどうの栽培を始めることにした。

  じつは、渡部さんは家族がアトピーに悩んだのをきっかけに、「安全な食べ物をつくる」ことに熱心に取り組んでいた。渡部農園は、長崎県で最初にエコファーマーの認定を受けてもいた。 「永田先生に、人の健康に役立つために、農薬や肥料はもっと減らせるし、もっとできることがあるのだと気づかされました」  さらに、渡部さんはこう付け加えた。 「適地という言葉にも心惹かれました。それなら、永田農法のトマトのように、人が驚くほどおいしい野菜を育ててみたいと思ったのです」

永田農法でおいしく

 最初の年の出来は芳しくはなかった。それは、「厳しく育てる」という農法をまだ理解していなかったからだろう。
「2年目に、化成肥料を一切やめました」
 農園を時折訪れる永田氏の言葉を参考に、畑の土は籾殻と米ぬか、それに石灰を混ぜて3カ月間太陽光の下で消毒し、熟成させるだけにした。それ以外の堆肥は使わない。苗は密植せず、株と株の間を広くとる。ハウスで雨を避け、与える水分は必要最小限だ。

「肥料と水分を抑えることが、農薬を減らす上でも、いちばん効果があると実感しています」
 そう話す渡部さんのハウスは、永田農法野菜に共通する特徴がいくつも見られる。例えば、葉の緑色が薄くて透明感があること。つるの節と節の間が短いこと。土がふわふわとして、細かい根が密生していることも特徴だ。
「収穫量は、慣行栽培の半分程度かもしれません。でも、その分おいしくなるなら、その方がいいですよね」
 渡部農園のスナップえんどうには、こんな心意気がこめられている。

 じつは昨シーズンは、多雨と高温という異常気象に見舞われて、農園は大きなダメージを受けた。今年は、そのリベンジの年だ。土づくりにも野菜の健康を高めることにも、例年以上に心を込め、工夫をこらしている。春の訪れとともに、スナップえんどうは、旨みを増し、旬を迎える。

「今年は順調です」
 明るい報告も届き、今年は皆様に春の味を充分に楽しんでいただけそうだ。

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