すいかはシャリ感が命! 悩みつつ栽培することも生き甲斐だ。

熊本県植木町は、すいか栽培の最適地にして日本一の生産地。
ここでシャリ感にこだわり、技を極めた生産者を訪ねた。

「すいかはむずかしい」
 片山安一さん(67歳)は、朗らかな声でそう話し始めた。
「どうしようかと考えて、眠れないこともあるんです」
 その横で妻の百利子さんが、「すいか栽培はお父さんの天職。頭の中は、すいかの事しかないわね」と笑う。
 取材に訪れたのは3月初めだというのに、2人は汗みずく。気温35度というハウスの中で、小玉すいか「ひとりじめ」の手入れに追われていた。収穫までは1週間。12月末の定植以来、手塩にかけて育ててきたすいかの、最後の仕上げの段階だ。
 片山さんが、眠れないほど悩んだのは、異常ともいえる天候不順が原因だという。まず、花が開いて着果する時期に低温が続いたこと。日照不足も問題だった。それに、厳しい寒気と春の陽気が交互に訪れる極端な天候の変化の対応にも追われた。
「でも、天候に負けてたまるか、と思う。トコトンすいかと向き合って手入れをしていけば、ちゃんと応えてくれますからね」
 そう言いながら、片山さんは「見て下さい。緑色が淡くて美しいでしょう」と、畑の葉を指さした。
「葉が養分をしっかりと果肉に送り込んでいるのが分かる。もう、大丈夫。今年もおいしくなりますよ」

小玉栽培のパイオニア

 片山さんの農園は、日本一のすいか産地である熊本県植木町にある。植木すいかの主流は大玉だが、片山さんは30年間、小玉を栽培してきた。そのきっかけは、「消費者のニーズに合わせよう」と植木町に導入された小玉すいかの栽培が不首尾に終わり、多くの生産者が栽培を諦めたことである。それが片山さんの挑戦者魂に火を点けた。
 そして、一般的に使われている夕顔の台木を、冬瓜に変更して栽培に成功。周囲を驚かせた。
 さらにその数年後、種苗メーカーの依頼で何品種もの小玉すいかを試験栽培していた片山さんは、新品種「ひとりじめ」に出会う。
「これだ! と直感しました」
 何しろ、シャリシャリとした食感が素晴らしい。「すいかにとってシャリ感は命」という片山さんは、それ以来、ひとりじめの栽培に集中する。糖度を高め、食べ応えのある味を目指して技術を磨いてきたのだった。植木町では、片山さんの栽培法を取り入れて、小玉すいかの栽培をする生産者も徐々に増えてきているという。
 ところで、小玉すいかの魅力とは何だろうか。
「小家族になって、カットされたすいかを買うことが多くなっているでしょう。でも、すいかは、サクッと包丁を入れた瞬間に香りがして、赤い果肉が現れるところがいいんです」
 その瞬間を楽しむことを、片山さんはすすめる。

生産者の楽しみ

 「さて」と、畑で1個収穫し、みんなで試食してみる。果肉は透明感のあるピンク色でシャッキシャキ。糖度は13度と充分甘いが、1週間後に完熟すればさらに1〜2度ぐらい上がるはずだという。出来は申し分ない。
「これからは換気が大切。気温を上げすぎず、畑の土を乾燥させて、果肉を引き締めていきます」
 先ほどは「もう大丈夫」と語っていた片山さんだが、じつはこれからやることも山ほどある。まだ気は抜けない。
「眠れないほど悩むけれど、すいか栽培はやりがいがある。あれもしたい、こうもしたいということがたくさんあって、楽しい」
 朗らかな片山さんが育てた「ひとりじめ」のお届けは、間もなくだ。さらに、その後には大玉のブラックジャックが控えている。   


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