ポイントは選び待つこと。 生産者が語る白鳳づくり

生産者が減り、白鳳は希少性が年々高まっている。
その栽培を守っている農園を訪ねた。

 「白鳳」の収穫が始まると聞いて飯野公一さん(61歳)の農園を訪れたのは、昨年の7月中旬だった。何しろ、白鳳は収穫適期が短い。その撮影機会を逃すまいと、慌てて現地を訪れた私たちを、飯野さんは、この日に収穫予定の農園に案内してくれた。白鳳の栽培地は何カ所かに点在しているが、その全てを合わせても収穫期間は1週間。しかも「特撰の果実が穫れるのは、3日間程度ですね」という飯野さんは、こう言葉を続けた。 「『待つ』『選ぶ』、この二つがうちの栽培のポイントです」

晴れ晴れとした果樹園

 果樹園は甲府盆地の西端、南アルプスの山裾の扇状地にあって、標高は約300メートル。残念ながら、遠望できる富士山は霞んでいたが、「この景色を眺めながら作業するのは楽しい」と飯野さんが語るように、そこに居るだけで気持ちが晴れ晴れとしてくる空間だ。
農園の土壌は石ころだらけで水はけがよい。夜明けと同時に太陽が差し込む農園は、光にあふれ、ほどよい風が吹く。農地は草で覆われている。余分な 水分を吸収し、枯れた後は肥料として役立つ草だ。
「果樹栽培には絶好の環境です」
 大きく枝を広げている樹と樹の間がぜいたくに空いていることも、農園ののびやかさに一役買っている。これだと、面積当たりの収量は減るが、果実の品質が高まり、軽トラが1本1本の樹に横付けできるので、作業効率も高くなるのだという。
 さて、飯野さんの「選ぶ、待つ」とはどんなことだろう。

「例えば、剪定の時にどの枝を残すかの目利き。あるいは、摘蕾、摘花、摘果をしながら、生らす実を選び抜いていくこと。収穫するのは、結実した実の1割程度です」
 そして、飯野さんは果実の色と形を見極めて、絶好の収穫のタイミングが来るのを待つ。
「これは今日が穫り頃ですね」と示した果実は、300グラムはある大玉だった。グッと張り出した肩が、細い枝を抱えるように盛り上がっている。
「果皮は、地色が黄色みをおび、紅色に染まっている。斑点があるのもいい。何より大切なのは形。横にふっくら膨らんでいるでしょう。間違いなくおいしいですよ」
 そんな農園の収穫は、近隣より1週間遅く始まるという。

桃栽培30年の歴史を経て

 飯野さんは農業大学卒業後、アメリカで2年間、農業研修をしたという。帰国後は農協の農業指導員の職に就いた。桃の栽培を始めたのは30年前のことだ。
 「指導員として色々な農家さんを見ていると、『私もやりたい』という気持ちが抑えられず......」と、親に内緒で1ヘクタールの果樹園を借りたのが、その最初だったという。その後、本格的に就農し、18年前に仲間と共に農業法人を立ち上げた。近年は、離農した高齢者から託された農地が増え、今は100カ所に散らばる農地で、各々の自然条件を生かして、さくらんぼ、桃、ぶどう、柿を栽培している。
「仕事の仕方はアメリカで、細かい段取りは父から学んだことが大きい。栽培方法は試行錯誤をしながら、徐々に確立してきたので、今ではうちの農園ならではの農法になっていると思います」
 じつは、白鳳は、生産者が減り、希少性が年々高まっている。収穫適期が短く、棚もちが悪いので、白鳳の樹を伐り、他の品種に植え替える生産者が多い。白鳳と他品種の掛け合わせや亜種も増えているので、果物の専門家は、純粋な白鳳を「本白」と呼んで区別しているほどだ。 「でも、大丈夫。私たちは白鳳をつくり続けますよ」
 そう語る飯野さんの言葉は力強い。品種に合わせて、きめ細かい管理ができるスタッフがその生産を支えている。  桃好きにとっては、白鳳には、他には代えがたい魅力がある。果肉はとろけるように柔らかい。口に含んだ時に、ジュワッと果汁があふれ出る食感は、他の桃では味わえない。今年も、そんな白鳳が飯野さんの農園から届く予定だ。楽しみに待ちたいと思う。

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