トマトにとことん向き合って20年。 探究に終わりなし

南国高知で育つ塩トマト。
そのおいしさは、生産者の探究心の賜物だ。

「失敗、失敗を繰り返しながら、今があるんだと思います」 トマトハウスの中を見わたしながら、久保英智さん(48歳)は、話し始めた。 久保農園を訪れたのは昨年の12月半ば。冬至が近いというのに、太陽の光が強く、そのまばゆさに「南国土佐」という言葉を実感する。農園は清流・仁淀川河口部の坦々たる田園地帯にあり、土佐湾の海岸線までは500メートル。風が微かな潮の香りを運んでいた。 「畑の土を5メートルも掘れば、海水混じりの水が浸み出してきます」と久保さん。  ここで育てているのは、塩トマトだ。

経験ゼロからの出発

 久保さんが勤めを辞めて、就農したのは20年前、28歳の時だという。本人に曰く「知識も経験もゼロからの出発」だった。農家育ちなのに、畑の手伝いも、農業を勉強したこともなく、「苗って何?というほどのレベルでした」と当時を振り返る。
「今にして思えば、それが良かったのかもしれません。先入観がなくて、何でも吸収できたので」
 そんな久保さんが栽培作物に選んだのは、トマトだった。当時、高糖度のトマトが注目を浴び始め、春野町でも、トマト栽培を手がける農家が出てきていたことが、その動機。
 ところが、栽培を始めてみると分からないことばかり。何しろ情報がない。栽培に関する本もない。それでも、あちらこちらを訪ねて教わり、試行錯誤をしながら、糖度を極めることに専心した。目指したのは究極のトマトだ。

 

ところが、10年前に転機がやってきたという。
「消費者が求めているトマトは他にあると、気づいたんです」
 それはどんなトマトか。その答えを求めて、今の久保さんの塩トマトがある。
「私は、糖度の高さにこだわるより、甘さと酸味のバランスを大切にしています。果肉とゼリー部分が果汁を含み、果皮も果肉も硬すぎません」
 それから、久保さんは言葉を続けた。
「おいしくて、何個でも食べられるトマトです」

これからも続く探究の日々

 工夫を重ねた久保さんが、行き着いたのは「根域制限栽培」と言われるものだ。塩分濃度の高い水分を直接吸収しないように根の深さを調整し、豊富なミネラルを含む表層の土にトマトが根を張るようにしている。農薬も肥料も控えめ。とりわけ徹底しているのが、水分管理だ。
「様子を見ながら、微量の塩分を含む灌水を与え、それを控え、また与えるの繰り返しです」
 そうやってストレスを与えすぎず、過保護にせず、樹を健全に育てていく。育苗の時から原則は変わらない。
「おいしいトマトが生る樹は、種から出芽した二葉の時から、根と茎が太くて背丈が低い。それには養土もさることながら、水管理が要」  どうしたら、おいしいトマトができるかを探究すると、播種の段階から「こうしたらよい」という発見があるという。
 20年間、蓄積してきた栽培データが、発見や細やかな管理の礎になっている。
「今も、色々なデータを取り続けています。それをもとに、みんなが喜んでもらえるトマトを、よりたくさん育てることが目的。探究は尽きません」

 さて、そんな久保さんの塩トマトは、厳寒期に味のピークを迎える。元気な樹で育つトマトが私たちのもとにやってくるのは、間もなくだ。  なお下段に、この塩トマトの販売をご案内しています。ぜひ、ご覧下さい。

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