先日、旧友が、ママになった娘さんとお孫さんの3人で遊びにきました。一家とは家族ぐるみの長い付き合い。この日は、「2歳になるケント(仮名)の成長ぶりを見てね」と久しぶりにやってきたのです。
子育て経験がない私は、幼児に用意する飲み物については、食べ物以上に悩みます。安心安全が第一であることは言うまでもありませんが、子どもの年齢によっては果汁を避ける人もいて、その辺りの加減がよく分かりません。
健菜のりんごジュースをご馳走したい。けれど、ママとしてはNGかも。麦茶のほうが無難かな。こんな風に迷いながら迎えた当日...。
「健菜ジュース! うれしい」
若いママは大歓迎してくれました。ケント君は、特別な日にはジュースを飲んでもよいのだそうです。そんなママが「私も飲みたい」と言い出すと、お酒が大好きなバアバ(つまり旧友)までが、「私も」と手を挙げ、結局、ジュースで「カンパイ」となりました。
ケント君はたちまちジュースに夢中になり、「おいしい!」を全身で表現。その一方で大人は、ワインのテイスティングをするように、ていねいにジュースを味わったのでした。
「こんな味、はじめて」
そう言う彼女たちに、私は原料の茜りんごや生産者について説明。その後はしばらく、各々の口からテレビの食レポのような感想が続きました。
それは、りんごジュースに、大人が語りたくなる魅力や存在感があるからでしょう。その日は、料理にも腕をふるっていたのに、話題の主役はジュースにさらわれました。
帰り際、「うちには贅沢すぎてこのジュースは買えないな」とママがつぶやきました。ご主人とお店を開業するために、節約中なのだとか。子どもに本物の味を知ってほしいという気持ちは山々なのでしょうが...。
でも、私も同じ年齢のころは、高級ジュースには手が出なかったかな。それに、昔はお金を使う優先順位が違っていて、ファッションや外食のほうが上位でした。今はからだが喜ぶ健やかなものを食べて「おいしいなあ」と感じることが最優先。だからりんごジュースも欠かしません。
「よかったね、ケント。ジュース、おいしかったものね」とママ。「あれあれ、おいしかったのはジュースだけ?」と突っ込みを入れたい気持ちを抑えて、3人を見送りました。
「また、遊びにきてね。ジュースが待っているよ」と。
ケント君はにっこり笑い、帰っていきました。
(神尾あんず)
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